不貞,不倫による慰謝料請求と相場

1 不倫・不貞行為について

夫婦が離婚する原因で最もポピュラーともいえるものが不倫・不貞ではないでしょうか?
  
でも突き詰めて考えてみると、不倫・不貞とは一体何を意味しているのでしょうか?
異性の友人とLINEでこっそりとやりとりをしている、異性の友人と二人きりで食事に行く、異性の友人と街で手をつないで歩く、等々こういった行為は全て不倫・不貞であると考える方もいるでしょうし、こんなのはいずれもスキンシップの一環として許されると考える方もいるでしょう。
  
このように使う人によって言葉の意味が変わってしまうと、不倫・不貞行為があった、なかった、と問題になったときに議論がかみ合わなくなってしまいます。
では、どのように考えれば良いのでしょうか?

まず、「不倫」とは一般的な用語で、法律上は「不貞な行為」と呼ばれています。(770条1項1号)。
そして、最高裁判所の判例では不貞な行為とは、「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」をいい、「相手方の自由な意思にもとづくものであるか否かは問わない」とあります(最高裁判所昭和48年11月15日判決)。
 
過去の裁判例も踏まえて判り易く言うと、配偶者以外の第三者(異性の友人、会社の部下、上司など)との間で肉体関係を持つと「不貞な行為」に当たると考えて良いでしょう。
ですから、異性の友人とのLINE上でのやりとりや、二人きりで食事に行く、手をつなぐ、といった行為は、判例上は「不貞の行為」には当たらないことになります(但し、後述のとおり別の離婚原因になる可能性はあります。)

加えて、肉体関係は一般に密室で持たれるものですから、立証は困難を極めます。
だからこそ、不貞行為の責任を追及する側は、興信所の調査報告書、写真、携帯電話、SNSでのやりとり、ホテルの領収書といったものから、肉体関係があったことを窺わせる事情を挙げて証明していくのです。
  
では、肉体関係の有無が明確にならないからといって、不審な行動をとる相手方配偶者を野放しにしておいて良いのでしょうか?
不貞行為と認定することが難しい場合であっても、異性との間での不純な肉体関係を推測させる不審な行動を継続した場合には、民法770条1項5号の「婚姻を継続しがたい重大な事由」に当たる可能性があります。
 

2 有責配偶者からの離婚請求について

夫婦関係が破綻した場合、主として責任がある側の配偶者のことを有責配偶者といいます。
浮気をした側、暴力を振るった側と言えば判りやすいでしょうか。

有責配偶者側からの離婚請求を認めることは、法律論以前に倫理・道徳的にどうなのだろうという気がしますよね(少なくとも私はします。)。 
かつて裁判所は、有責配偶者からの離婚請求を認めない姿勢を貫いていました。

しかし、その後、最高裁判所は有責配偶者の離婚請求に関して、有責配偶者からされた離婚請求を認めるという判決を下しました(最高裁判所昭和62年9月2日判決)。

噛み砕いていうと、
①相当長期間の別居、
②未成熟子がいないこと、
③相手方配偶者が離婚によって過酷な状態におかれないこと、
の3つの要件をクリアすることで有責配偶者からの離婚請求でも認められるということです。

とはいえ、個々の要件を満たしているのかは過去の裁判例も踏まえながら個々の事案に応じてケースバイケースで判断していくことになるでしょうし、有責配偶者からの離婚請求は簡単に認められるわけではないということは肝に銘じておく必要がありそうです。
 

3 慰謝料の請求について

相手方の有責行為によって離婚に至った場合、これによって被る精神的苦痛を慰謝する損害賠償請求が認められています。

ここで注意が必要なのは離婚をすれば当然のように相手方に慰謝料の支払ってもらえるわけではないということです。
 慰謝料が相手方の有責行為(不貞行為、暴力、など)によってやむを得ず離婚に至った場合に、その精神的苦痛を償うことを目的としてなされるものである以上、婚姻生活が破綻した原因が双方に等しく責任があると評価されるような場合にはお互いに慰謝料請求が認められないということもあり得ます。

また、慰謝料の相場についてもよく聞かれますが、明確な相場はありません。
個人的な印象になりますが、不貞行為に対する慰謝料請求が認められた過去の裁判例をみてみますと、請求金額は300万円から500万円の範囲内が多く、裁判所に認容された金額は100万から300万円の範囲内のものが多いように感じます。
 

4 慰謝料請求にあたっての注意点

相談者のなかには相手方への報復感情から「1000万円を超える多額の慰謝料を請求したい。」、「相手方配偶者にこれだけ傷つけられたのだから、必ず多額の慰謝料がとれますよね?」と言われる方がおられます。
お気持ちとしては大変、理解できますし、相手方が納得の上できちんと支払ってくれれば問題ありませんが、相手方がこれを拒絶し、裁判所での判断を仰いだ場合には請求金額がそのまま認められる可能性は低いことは念頭においておきましょう。

むしろ、有責行為(不貞行為)の内容や相手方の資力、過去の裁判例の集積も踏まえて、弁護士のいわゆる相場観も参考にしながら常識的な金額を請求する方が、支払いの履行可能性を高め、離婚問題の早期解決にもつながるといえます。

 

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