離婚後、婚姻前の氏に戻りたい。

2016-03-28

離婚をしてからある程度、期間が経過した後に、「氏」(苗字のことです。)を婚姻前に戻したいのですが、、、といった相談を受けることがあります。

こうした悩みをお持ちの方は男性よりも女性の方が圧倒的に多い印象を受けます。これは我が国においては婚姻時に夫の氏を名乗るケースが圧倒的に多いという現状からくるものだと思われます。

さて、法律上は、離婚後は婚姻前の氏に戻るのが原則となっていますが、離婚後3か月以内であれば法律の定めに従い役場に届け出ることによって婚姻時の「氏」を引き続き名乗ることができます。

裏を返せば離婚の際に、婚姻時の氏を引き続き名乗る手続きさえとらなければ婚姻前の氏に戻るということです。

ここまではとりたてて難しい話ではありません。

問題は「離婚後、婚姻時の氏を名乗る手続きをとって生活をしていたものの、やっぱり婚姻前の氏に戻したい。」、と思うようになった場合です。

こうした場合、氏を戻す方法の一つとして家庭裁判所から「氏の変更許可」の審判(ご判断)をもらうことが考えられます。

大まかな流れとしては以下の通りです。

 ①裁判所に氏の変更を許可してもらう。
  ※戸籍謄本、印紙800円、切手等が必要となります。
   詳しくは申立人の住所地にある家庭裁判所にお問い合わせください。
 
           ↓

 ②申立てをされた方の本籍地又は住所地の役場に氏の変更の届出を行う。
  ※届出の際に必要となる書類は各役場にお問い合わせください。

それでは家庭裁判所は「ほいほ~い。りょうか~い♪」と二つ返事で「氏の変更許可」を出してくれるものでしょうか??

当然、家庭裁判所はそんな、かる~いところではありません。

法律上、氏の変更には「やむを得ない事由」が必要とされています(戸籍法107条)。

法律書などを読むと「やむを得ない事由」の代表例としては珍名や難解な読み、通称を永年に亘って使っている等が挙げられています。

そして珍名等によって申立人が不利益を被っているので氏の変更はやむを得ない、と書式例なんかには書いてあります。

珍名や難解な読みなんかは誰がみてもその問題点を把握しやすいですよね(これを「客観性」があるといいます。)

一方、離婚後、3か月を経過してからやっぱり婚姻前の氏に戻りたいというケースの場合は、

「離婚当時は周囲に離婚したことを知られたくなかったので婚姻時の苗字を名乗ったけど、その心配はなくなった。」

「離婚時は子どものことを考え苗字をそのままにしておいた。けれど子どもが成長し学校も変わるので良い機会だと思った。」

「実家の両親と同居しているが苗字が違うのは世間体が悪い。」

「婚姻時の苗字を名乗ることで、元配偶者やその親族から嫌がらせを受けている。」

といった主観的な理由(要するに「その人にしか分からない気持ちの問題」)が背景にあるように思います。

こうした「離婚時に抱えていた問題が解消されたから。」という理由が、氏を変更する「やむを得ない事由」にあたるのかは、やはり当該問題の中身にもよるでしょう。

また、「一度婚姻時の氏を名乗ると決めたのだから、婚姻前の氏に戻すにはそれなりの客観的な理由が要りますよ。」という厳格な立場と、「婚姻前の氏に戻るのが原則なのだから、主観的な理由であっても、そこは一般の氏の変更よりは緩やかに解釈してOKすれば良いじゃないか。」という立場のどちらに寄るかで判断が分かれるところでしょう。

過去の裁判例をみると、厳格な立場から判断したもの、緩やかな立場から判断したもの、それぞれ見られますが、参考事例として「やむを得ない事由」を緩やかに解釈する立場にたって判断を下した裁判例をご紹介します。

このケースでは離婚後も夫の氏を名乗って生活を続け、約11年が経過していたものの、実家の両親と暮らすなかで何かと支障が生じるので氏の変更許可の申立てを行い、裁判所はこれを認めた、というものです(大阪高裁平成3年9月4日決定)。

個人的な見解ですが、民法の原則どおり婚姻前の氏に戻るのだから、婚姻前の氏に戻る場合は緩やかに認めてもいいじゃないか、と思います。

最後はもちろんケースバイケースですが、①離婚当時、氏に関してご自身が抱えていた問題点、②そしてそれが今になって解消されるに至り、③氏を変更しても社会生活上、周囲に迷惑はかからない、といった事情を具体的に主張していくことになるのでしょう。

 

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