近隣紛争の難しさ(騒音編③)

2015-09-30

近隣紛争(騒音)に関するコラムの続きです。

今回は受忍限度を超えていると判断されたケースをご紹介致します(東京地方裁判所・平成19年10月3日判決より(太字部分が引用部))。

このケースはマンションの階上の住戸に住むYさんの子供が廊下を走ったり跳んだり跳ねたりする音が、階下の住戸に居住する原告Xさんが社会生活上受忍すべき限度を超えているとして被告Yさんに対して損害賠償請求をした事案です。ちなみにXさんの請求は認められています。

それではさっそく裁判所の判断部分(太字部分)をみてみましょう。

「本件音は,被告の長男(当時3~4歳)が廊下を走ったり,跳んだり跳ねたりするときに生じた音である。

⇒音の正体がバッチリと分かっていますね。

本件マンションは,3LDKのファミリー向けであり,子供が居住することも予定している。

⇒子どもの生活音がすることが想定されており、Xさんもある程度の音は我慢しなくてはいけないでしょう。Yさん側にとって有利な事情ですね。

しかし,平成16年4月ころから平成17年11月17日ころまで,ほぼ毎日本件音が原告住戸に及んでおり,その程度は,かなり大きく聞こえるレベルである50~65dB程度のものが多く,午後7時以降,時には深夜にも原告住戸に及ぶことがしばしばあり,本件音が長時間連続して原告住戸に及ぶこともあったのであるから,被告は,本件音が特に夜間及び深夜には原告住戸に及ばないように被告の長男をしつけるなど住まい方を工夫し,誠意のある対応を行うのが当然であり,原告の被告がそのような工夫や対応をとることに対する期待は切実なものであったと理解することができる。

⇒深夜に50~60デシベルという音はかなりうるさいです。Yさんの侵害行為の態様はひどいといえるでしょう。

そうであるにもかかわらず,被告は,床にマットを敷いたものの,その効果は明らかではなく,それ以外にどのような対策を採ったのかも明らかではなく,原告に対しては,これ以上静かにすることはできない,文句があるなら建物に言ってくれと乱暴な口調で突っぱねたり,原告の申入れを取り合おうとしなかったのであり,その対応は極めて不誠実なものであったということができ,そのため,原告は,やむなく訴訟等に備えて騒音計を購入して本件音を測定するほかなくなり,精神的にも悩み,原告の妻には,咽喉頭異常感,食思不振,不眠等の症状も生じたのである。

⇒Yさんの開き直りとも言える態度はよろしくありません。また、Xさんの家族に深刻な被害が出ています。

以上の諸点,特に被告の住まい方や対応の不誠実さを考慮すると,本件音は,一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えるものであったというべきであ」る。

上記のケースは前回紹介したケースと違い、音の正体や大きさがバッチリ分かっています。また、Xさんの家族に生じている被害は深刻です。

それを踏まえてXさん側の事情とYさん側のそれぞれの事情を総合的に考慮し、受忍限度を超えていると判断しています。

私は妥当な結論だと思います。

ファミリー向けマンションですので夜、子どもがなかなか寝付かず、はしゃぎまわることもあるでしょうし、Xさんも多少の我慢は必要になってくるでしょう。

しかし、上記のケースではYさんの対応がひどすぎたように思います。こうした近隣紛争はたった一言「うるさくしてすみません。」と謝るだけでもその後の展開が違ってくることが少なくありません。

場合によってはXさんだって「子供が小さいうちはしょうがないな。」と思ってくれた可能性だってあったと思います。受忍限度の考慮要素の一つである「その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等」に当てはまる本件の事情が、Yさんにとってかなり不利に働いたものと思われます。

このように「受忍限度」とは、お互いに我慢すべきところは我慢しつつ、ある線を超えたら許しませんよ!、というように、当事者間の権利や利益を調整するための考え方であることが分かります。

当事務所が近隣の騒音問題について相談を受けた際に、相談者の方の言い分だけでなく、それを裏付ける証拠を揃えたり、相手方の言い分についてもきちんと耳を貸すように助言することがあります。それはこの「受忍限度」という考え方が私の頭の中にあるからです。

さて、近隣紛争(騒音)に関する問題点について主に法律論を中心にこれまで見てきましたが、次回が最後になります。

最後の回は近隣紛争は法律論だけでは解決できない、という点にスポットを当てたいと思います。

近隣紛争が法律論で全てカタがつくのであれば、バンバン訴訟を起こして白黒つければよいはずですよね。

ですが実際はそうはいきません。その難しさを少しでも分かってもらえればと思います。

 

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