近隣紛争の難しさ(騒音編①)
騒音、日照、悪臭、嫌がらせ等々、近隣紛争の相談内容は多岐にわたっており法律論のみならず解決までには困難なハードルが幾重にも立ちふさがっています。
今回からしばらく「騒音」に関する問題を取り上げたいと思います。
そもそも「騒音」とは一体、どういった音なのでしょうか?
手元の国語辞典を開いてみると「騒がしく、不快感を起こさせる音。」とあります。
でも音の聞こえ方、感じ方は人によって違いますよね?
例えば僕が即興で作ったオリジナルソングを口ずさんでいると、事務局さんから「ちょっと先生、仕事に集中できないので止めてください。」というクレームが出たりします。
またある時は「あ~、食った、食った」とポンポンとお腹を叩いてご機嫌でいると、事務局さんから「ちょっと、腹を叩くのを止めてください。下の階まで響いてます。」というクレームも出ます。
このように幾ら自分が静穏あるいは心地よいと感じていても他人からしてみれば騒がしく、かつ不快に感じることがままあるのです。
そして「音」の有無は通常、耳や専用の機材で判断できるのに対して、出ている音をどのような基準でもって「騒がしい」あるいは「不快」だと判断するのか、ここが騒音問題の難しさの一つだと考えています。
それではここで「騒音」に関して規定している法律を見てみたいと思います。
我が国には「騒音規制法」という法律があります。よんで字のごとく騒音を規制する法律です。
おお!じゃあこの法律を使うことで、アパートの隣の部屋の生活音がうるさいと感じたときはビシバシと規制してもらえるのですね!と考えた貴方、、、ちょっと待ってください。
同法の一条をよくみてみましょう。
(目的)
第一条 この法律は、工場及び事業場における事業活動並びに建設工事に伴つて発生する相当範囲にわたる騒音について必要な規制を行なうとともに、自動車騒音に係る許容限度を定めること等により、生活環境を保全し、国民の健康の保護に資することを目的とする。
どうやら騒音規制法の規制対象となっているのは事業活動や建設工事、自動車騒音であって、隣の部屋の生活音までは規制対象になっていないようです。
無論、規制対象になっていないからといって、何時でも好き勝手に音を出して生活をして良いわけがありません。
他方、不快に感じたからといって何でもかんでも「騒音」扱いされてはたまったものではありません。
生活音のように、生活をしていく上で避けられない音をどのように「違法」と判断するのかは本当に難しい問題です。
上記問題に対する代表的な考え方の一つとして、生活音が「一般生活上、受忍すべき限度を超えているかどうかを判断し、その限度を超えた場合に違法とする」、いわゆる「受忍限度論」という考え方があります。
でもよくよく考えると「受忍限度」って何だろう?ってなりませんか??
受忍限度論は「生活音が○○デシベルを超える⇒受忍限度を超えた!⇒違法だ!⇒損害賠償あるいは差し止めだ!」という単純な判断基準ではありません。
受忍限度を超えているかどうかの判断には様々な考慮要素があるのですが紙面の都合上、次回のコラムで取り上げたいと思います。
なお、私の個人的な見解ですが騒音規制法で定められている基準は、生活音が受忍限度を超えているか否かの考慮要素の一つになると思います。
例えば私の当事務所の住所地(準工業地域)では夜間の騒音の規制基準は55デシベルとなっています(坂井市HPより)。55デシベルというと人の普通の話し声が目安になるそうです。
55デシベルを超える生活音を出したら即、違法とはなりませんが、55デシベルを超えているか否かは当事務所界隈のアパートの騒音(生活音)問題を考えるにあたって重要な考慮要素には違いありません。