令状主義と対バイオロン法

2015-10-25

皆さんもご存知のように「世界忍者戦ジライヤ」の次に放送されたメタルヒーローシリーズはジ!バ~ン↗、ジ!バーン↗のOPでおなじみの「機動刑事ジバン」です。

警察署の刑事である田村君は、犯罪組織バイオロンの襲撃により命を落としてしまいますが「ジバンプロジェクト」の被験者に選ばれサイボーグとして蘇りました。

ジバンはサイボーグなだけあって動きは「うい~ん、ガシャン。」とまるでロボコップです。前作が忍者でしたので私は機動性に欠けるジバンはあまり好きにはなれませんでした。

また、やたらめったらバズーカ砲?バルカン砲?をぶっ放して敵組織の速やかな鎮圧を図る戦いぶりが大味で物足りませんでした。

そんなジバンの決めポーズといえば、戦闘前に警察手帳を取り出し、バイオノイド(バイオロンの怪物)に対して「対バイオロン法」を読み上げるところです。

ジバン

第1条

機動刑事ジバンは、いかなる場合でも令状なしに犯人を逮捕することができる

第2条

機動刑事ジバンは、相手がバイオロンと認めた場合、自らの判断で犯人を処罰することができる(補則)場合によっては抹殺することも許される

ジバンはだいたいの敵に対して2条の補足を読み上げ、逆上したバイオノイドに対して問答無用で抹殺を図るという無慈悲ぶりでした。

私はこの対バイオロン法について子ども心に違和感を覚えていました。その違和感の正体に気が付くのは今の仕事についてからでした。

皆さんは「令状主義」という言葉をご存知でしょうか??

犯罪の捜査時において、捜査機関が強制処分(個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など)を行う際に、被処分者の人権が不当に侵害される事態を防ぐために令状がなければ強制処分はできませんよ、という原則のことです。

令状主義の根拠は日本国憲法にあります。

日本国憲法第33条
何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

日本国憲法第35条
何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

2  捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

「逮捕=警察」のイメージが強いせいか、「逮捕する」「逮捕しない」は警察のさじ加減ひとつだと誤解されている方が実は少なからずいらっしゃるように感じます。

逮捕はその人の意思に反して強制的に身柄を拘束される手続きです。捜査機関の好き勝手にされてはたまったものではありません。

そのため逮捕についても原則は「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる(刑訴法199条前段)」とされており裁判官(司法権)のチェックが入ることになっています。

裁判所のチェック機能は十分か?という点について議論はありますが、捜査機関が逮捕状をもってきた際には裁判官の事前チェックを受けていると思ってください。

さて、もうお分かりかと思いますがジバンが持つ権限は極めて強大であって「令状主義」の及ぶところではありません。

なにせ自己の判断で逮捕はするわ、ケースによっては抹殺できるわで冤罪どころの騒ぎではありません。

ジライヤですら警察の捜査を受けて逮捕されたことだってあるのですから(冤罪でしたが。)、子ども頃の私はジバンの持つ権力の大きさに若干とまどったのでしょう。

たとえヒーローといえど過度の権力集中はよろしくはありません。

そういった意味で特撮ヒーローの「特捜戦隊デカレンジャー」では敵怪人(犯罪宇宙人)を抹殺する際には宇宙最高裁判所からのデリート許可を要するという設定は非常に良かったと思いますね。

 

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