「聖の青春」観てきました(ネタバレ有り)
弱冠29歳の若さで亡くなった実在の天才棋士・村山聖[さとし](1969~1998)――。難病と闘いながら将棋に全てを懸けた壮絶な生きざまを描く、感動のノンフィクション小説が待望の映画化。
(「聖の青春」HP・イントロダクションより)
11月19日の公開初日にレイトショーへ行って観てきました。
原作小説は読んでいませんが、村山聖先生のご活躍は観戦記などを読んで知っていましたし、一将棋ファンとしては「将棋」を題材とした映画は見逃せません。
映画館へ行く前から「村山先生は一般の方はあまりご存知ないだろうなあ。」「きっとコアな将棋ファン(オジさん)しかいないだろうなあ」とか思っていたら、意外と若い女性の方もチラホラといたのが驚きでした。
後から考えてみると主演の松山ケンイチさんや羽生善治さん役の東出昌大さんのファンだった可能性が大ですね。
僕はバケツのような入れ物に山盛りになったポップコーン(最大サイズ)と炭酸飲料を調達して、ワクワクしながら映画が始まるのを待ちました。
映画の感想ですが、以下はネタバレとなりますのでご注意ください。
まず全体的を通して可もなく不可もなく、でもまた見たいとは思わないので五つ星中、二つ星(★★☆☆☆)といったところでした。
まず良かったところですが、役者さんの熱演が全体を通して光っていました。
映画を見終わった後には、主演の松山さんが演じた村山先生が完全に僕の中での村山先生像となってしまいました。
BGMもあまり使われておらず、対局中は役者さんの演技と駒の音で魅せるというのも良かったと思います。
リリーフランキーさんが演じる師匠の森先生も良い味を出していましたね。もはや師弟というより面倒見の良い父ちゃんでした。
村山先生の弟弟子の江川君(奨励会3段:演・染谷将太さん)はプロ棋士になるための登竜門・奨励会を勝ち抜けずに終わるのですが、最後の3段リーグ戦での対局で強い小学生?と当たり、鼻血を出しながら指す姿は不格好ながらも必死さが伝わってきて、終盤で諦めずきれずに詰まされるまでさすシーンはものすごい悲壮感がただよっていました。
プロ棋士への道のりの厳しさがものすごく伝わってきた屈指の名シーンといえます。
しかし、プロ棋士への道のりを断たれ、「この経験は必ず活きてくる。」と江川君が自身を懸命に鼓舞しようとしているのに、「負けたら全部終わりなんじゃ。」「お前は今日、死んだんじゃ。」とか怒鳴って、酔っぱらって江川君に絡む村山先生は酒癖が悪すぎます。
江川君も最後はブチ切れて、村山先生をブン殴りますが、これは殴られても文句は言えないでしょう。
さて、ここからだんだんと辛口評価になっていきます。
まず、村山先生のライバル羽生善治先生を演じた東出さんですが、こちらは「う~ん・・・似てはいるけど・・・」といった感じでした。
確かに羽生さんの対局中の細かい癖や仕草を完全にトレースしており、巷の批評でいわれるように羽生さんとそっくりだったという評価は僕もそうだと思います。
でも、どこか良くできた物真似を見せられている気がして、現役バリバリで活躍されている方を演じる難しさを感じました。
例えていうなればコロッケさんの芸の完成度をすごいと思ってしまう感覚でしょうか。
また、「東の羽生」「西の丸山」と称されていたのですから二人のライバル関係の描写がもっとあっても良かったと思います。
実際、棋界のレジェンド羽生さんと対戦成績が五分に近いプロ棋士は他にもいるなかで、何故、村山先生がライバルと言われたのかその辺りが掘り下げられていなかったです。
羽生さんの口から村山先生への思いを語らせることが難しいのであれば、棋界の人間模様や力関係をもっと描くなりしてライバル関係にあることを強調した方がよかったです。
あと全体を通じてよくわからない風景描写が多く、そんな描写をいれるくらいなら役者さんにもっとセリフをしゃべらせろよ、と思いました。
村山先生の人生の掘り下げもどこか甘く、全体的に抑揚がないまま見終わってしまった印象を受けました。
この映画から伝わる村山先生像は、せいぜい酒癖が非常に悪いこと、コミュニケーション能力が低く女性に免疫がないこと、重たい病気に罹患し、半ばヤケッぱちになっていた・・・といったところでしょうか。
名人への夢半ばで倒れた村山先生の一生を描くにはあまりにも薄っぺらい内容で、感動したくても感動するポイントが見つかりませんでした。
全体的に将棋ファン以外には不親切な仕上がりとなっており、対局シーンでは一体この棋戦は何なのか?この対局に勝てばどうなるのか?よくわからないまま、次から次へと対局シーンを見せられることになります。
途中であとどのくらいこの映画は続くのだろう、同じような対局シーンが続くけれど将棋を知らない人は途中で飽きるだろうなあ、とか思っていましたから、僕も完全に集中力が切れていました。
自分の中での前評判が極めて高かった分、すごく残念な映画でした。
題材と役者は良いはずなのに残念な映画に仕上がったのはやはり監督のせいでしょうか?
唯一の救いは公開初日にニコニコ動画で放送されていた「聖の青春」の打ち上げがみれて、良かったことくらいでしょうかね。