近隣紛争の難しさ(騒音編②)

2015-09-30

前回の近隣紛争(騒音)に関するコラムの続きです。

騒音の違法性を判断するに当たり「受忍限度」という判断基準が用いられることがあると説明しましたが、言葉だけ聞いてもよく分からないですよね?

一ついえるのは○○デシベル超えたら即、違法!のような分かり易い判断基準ではないということです。

例えばある裁判例では受忍限度を超えているか否かの判断方法について以下のように判示しています(東京地裁平成21年10月29日判決より)。

原告が騒音により受けた被害が,一般社会生活上の受忍限度を超えるものであったか否かは,加害者側の事情と被害者側の事情を総合して判断すべきであり,具体的には,①侵害行為の態様とその程度,②被侵害利益の性質とその内容,③侵害行為の開始とその後の継続状況,④その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等を総合して判断するのが相当である。

無論、上記裁判例の解釈が絶対ではありませんが「加害者側の事情と被害者事情を総合的に考慮して判断する。」という骨子は基本的にどの類似事件にも当てはまる考え方だと思います。

また、判断の際には一般人を基準とするとされており、例えば「僕は超神経質だから人が呼吸する音も気になる」という極端な人が当事者であっても一般人を基準にして判断することになるでしょう。

ここからは受忍限度を超えたと判断されたものと、そうでないものの二つの裁判例を紹介したいと思います。

いずれの事案もXさんがその居室の真上の居室に居住していたYさんに対して、Yさんの居室からの騒音により精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づき慰謝料などを請求した事件です。

まずは当職の経験上、解決の糸口が大変、見えずらいケースからご紹介いたします。

Xさんの請求は認められないとされた裁判例(東京地裁平成17年10月21日判決より・下線部当職)。

第3 当裁判所の判断
 1 本件の争点は,要するに,被控訴人が受忍限度を超える違法な騒音を発生させていたか否かという点にある。
 2 そこで検討するに,控訴人は,原審における本人尋問(甲3)において,その主張に沿う供述をするところ,その要旨は,原判決「事実及び理由」欄第3の2(1)記載のとおりであるから,これを引用する。
   しかしながら,その一方で,控訴人は,被控訴人の居室から聞こえてくる騒音を何度もテープに録音しようと試みたが,なかなかうまく録音できなかったと供述し,さらに,その音は,被控訴人の生活上の音ではないが,どのようにして生じているのかは分からないと供述しているのであり,これによれば,控訴人の主張するような騒音が,果たして実際に発生していたかどうかは疑問がある。
   そして,被控訴人は,原審における本人尋問(甲3)において,騒音を発生させたことはないと供述している。
   そうすると,控訴人の前記供述については,他にこれを裏付ける証拠がない以上,そのままで採用することは困難であるから,結局,被控訴人の居室から控訴人の主張するような騒音が実際に生じていたとは直ちに認め難いし,仮に何らかの物音が生じていたとしても,それが,一般的にみて,社会生活上受忍すべき限度を超えるだけの違法なものであったとまでは認めるに至らないというべきである。まして,本件証拠上,被控訴人が,控訴人に対してことさら嫌がらせを行おうとしたものとは認められない。
   以上によれば,控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
 3 よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

僕なりに要約するとXさんは上から聞こえてくる音に我慢がならなかったと主張しています。ですがYさんはXさんの主張を真っ向から否定し、まさに水掛け論状態になっています。

民事裁判の小難しいルールを抜きにしても上記のケースでは、XさんとYさんの双方の事情を総合的に考慮する以前の問題ではないでしょうか??

結局、裁判を通じても音の正体は不明だったうえに、音の存在もXさんの言い分以外からは確認できておりません。

こうなってくると総合考慮をしたくても考慮要素に当てはまる事実をXさんが用意できていないため判断のしようがありません。

それゆえ上記のケースでXさんの請求を認めなかったのは妥当であると考えます。

こうした確たる証拠がないなかで「とにかく隣がうるさいんだ。」「なんとかして欲しい」と相談に来られるケースは意外と少なくありません。

気持ちは分かるのですが、当事者の一方的な言い分のみではなかなか解決に結び付かないこともまた理解して頂きたいと思います。

最後のコラムで取り上げるつもりですが法律論だけで生活騒音の問題が解決できるならこんな楽なことはありません。

私はどちらかというと交渉相手の理解を求める作業が一番大変だと思います。

それゆえ理解を求めるための道具として「事実」と「証拠」は出来得る限り揃えておくにこしたことはないのです。

次回のコラムでは受忍限度を超えていると認めた裁判例を紹介したいと思います。

こちらのケースでは音の大きさも正体もバッチリ掴めておりますので、まさに総合的な考慮が必要になってきます。 ~つづく~

 

ページの上部へ戻る

Copyright(c) 2016 春江法律事務所 All Rights Reserved.